研究概要 |
生殖細胞は通常は配偶子形成のために高度に専門化された細胞であるが、同時にEmbryonicstem(ES)細胞や奇形腫などの多能性細胞を産生する能力も併せ持つことが知られている。しかしながら、生殖細胞の持つこの多能性制御機構については殆ど理解されてない。本研究では申請者のグループで樹立した精子幹細胞培養株(Germline Stem,GS細胞)がESと同様な多分化能を獲得することから、GS細胞にES細胞未分化制御に関わる遺伝子を導入してGS細胞が多能性細胞へと変化するのか試みた。 ES細胞の多能性維持と細胞の増殖に関わると報告されているAktはPhosphoinositide-3kinase(PI3K)によってリン酸化され、活性化される。4-hydroxy-tamoxifen(4OHT)によって発現が誘導されるMyr-Akt-merプラスミドをGS細胞へ導入しその変化を解析した所、Aktの活性化によるGSのmGS(multipotent Germline Stem)細胞への変化は見られなかった。野生型のGS細胞にGDNFを加えるとAktがリン酸化されるがGDNFなしではAktのリン酸化は起こらず細胞の分裂が止まってしまう。Myr-Akt-merGS細胞は4OHT存在下でGDNFなしで5ヶ月以上分裂し続き、野生型のGSと同様な遺伝子発現パターンやアンドロジェネティクなインプリンティングパターンを示すことが分かった。あと、この細胞を不妊マウスの精巣に移植してAktGS細胞由来の子供を得ることも出来た。 これらの結果からPI3K-Akt pathwayの活性化は精子幹細胞の自己複製(self-renewal)に重要な役割を果たしている事が明らかとなった。これらの研究成果は現在Development誌にてin press中である。
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