1.誘導における応答能の制御 マボヤ脊索誘導において、誘導シグナルであるFGF/ras/MAPKによるEtsのリン酸化が、どのように脊索特異的遺伝子brachyuryの転写活性化に寄与するのかを詳細に調べた。具体的には、in vitroでリン酸化されたEts組み換えタンパクとリン酸化されていないタンパクを用いて、brachyury転写調節領域上のEts認識配列および内在性応答能因子の1つであるZicとbrachyury遺伝子の転写に重要であると考えられたCBP (CREB Binding Protein)への結合性を、ゲルシフトおよび共免疫沈降法(Co-IP)により検証した。その結果、Etsは、リン酸化の有無に関わらず、Ets認識配列およびCBPへの結合性は変わらないことが示された。また、Zicへの結合は観察されなかった。Etsのリン酸化によりEtsにどのような性質の変化が起こるのかは次年度以降の課題である。 間充織誘導においては、間充織誘導直後に誘導シグナルであるFGFに応答して間充織で特異的に発現すると考えられるTwist-like転写因子のマボヤオーソログを単離した。今後、この転写因子の転写調節領域を解析することにより、FGFと内在性応答能因子であるmacho-1がどのように相互作用して組織特異性を生み出すのかを明らかにできると期待される。 脊索/間充織誘導において、それぞれの内在性応答能因子がお互いにどのように相互作用して胚の前後の違いを作り出すのかという問題については、1つのメカニズムとして、胚の後方に母性由来で存在するmacho-1が、前方(脊索)の内在性応答能因子であるZicとFoxAのザイゴティックな発現を抑制することにより、後方特異的なFGFに対する応答能を維持し、同時に前方特異的な応答能を抑制していることを明らかにした。 2.誘導により引き起こされる非対称分裂の解析 FGFに応答して脊索を作れるか作れないかという非対称性が、32細胞期胚の脊索/神経索細胞において、今まで考えられていたよりもかなり早い時期に確立されているのではないかと支持する結果を得た。
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