|
母親からの遺伝情報が卵の細胞質に蓄えられることで子に伝えられる母性遺伝は、動物の形態形成において重要な役割を担っている。ハエや線虫では、母性効果変異体の解析によって母性効果遺伝子の重要性と機能が分子レベルで理解されてきているが、脊椎動物では不十分である。特に発生過程で繰り返し発現し、後期発生において個体の生存に必須な遺伝子については、初期発生でどのような母性効果を示すかほとんど分かっていない。そこで本研究では、脊椎動物発生過程における母性効果遺伝子の役割を明らかにすることを目的とし、遺伝学的解析に優れた利点を持つゼブラフィッシュを用いて胚性致死接合体劣性変異体の中から母性効果変異体をスクリーニングする。母性効果変異体の一般的な作製方法である3世代スクリーニング法では、変異をホモに持つメスの成魚から卵を得なければならない。そのため、胚性致死である接合体劣性変異を示す遺伝子については、母性効果変異としてスクリーニングすることが出来ない。そこで、胚発生期にホモ変異体の始原生殖細胞を正常胚に移植することで致死性を回避し、変異をホモに持つ生殖細胞を持つ成魚を作り出すことを試みている。まず初めに本実験の条件検討を行い、宿主とする野生型は生殖細胞が正常に発生しないように処理を施し、ドナー胚が形態形成に異常を示す前に始原生殖細胞を取り出せるように初期胞胚期に細胞移植を行うこととした。そして、申請者が独自に単離した多くの胚性致死接合体劣性変異体の中からいくつかの系統についてホモ変異生殖細胞を持つ成魚の作製を開始している。今後は、より多くの突然変異体系統からこのような成魚を作出し、ヘテロの成魚と交配して得られる胚を観察することで母性効果変異体のスクリーニングを行っていく。興味深い表現型については、組織学や分子生物学の手法を用いて詳細に解析する。
|
