本研究では、細胞系譜の非対称性をっくる上で、クロマチン制御機構がどのような働きをしているかについて、ブロモドメイン蛋白質であるBETファミリー蛋白質を中心に解析を進めている。BETファミリー蛋白質はアセチル化ヒストン結合ドメインとして知られるブロモドメインを二つ持つ、酵母からヒトまで保存された蛋白質である。BETファミリー蛋白質は、酵母ではクロマチンリモデリング因子Swr1と共にユークロマチンの維持に必要であると考えられているが、多細胞生物での働きはあまり良く分かっていない。今回、C.elegansを用いて、細胞系譜の非対称性に必要とされる遺伝子を単離・同定していく過程で、BETファミリー蛋白質BET-1(申請書にはPSA-14と記載)を見いだした。本研究ではこのbet-1変異体の表現型の詳細な解析を行った。bet-1変異体では複数の細胞系譜で異常が見られる。そこで、各細胞系譜で単一の細胞で発現するマーカーを、bet-1変異体に導入しその発現を観察した。その結果、マーカーの異所発現が見られる事、異所発現は正常なタイミングよりも遅い時期にも引き起こされる事を見いだした。この事は、bet-1変異体では遺伝子の発現パターンの維持が異常になっていることを示唆している。BET-1はヒストン結合蛋白質であると考えられるが、各細胞系譜でのターゲットとなる遺伝視座は明らかになっていない。しかし、それぞれの細胞系譜で、特定の細胞種に発現する複数のマーカーの発現に異常が見られる事から、BET-1は細胞の運命決定に重要な働きを持つ転写因子の発現制御を行っていると考えられる。これらはBET-1が細胞の運命の維持に必要とされ、これを介して細胞系譜の非対称性を制御している可能性を示している。また、現在BET-1と共に働く因子を同定するためにSwr1相同遺伝子等のRNAiを行っている。
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