平成18年度は、骨格筋パターニング機構をメダカとヤツメウナギで対比する目的で、シクロパミン処理によるHh(ヘッジホッグ)カスケードの阻害が骨格筋形成に及ぼす影響について検討した。メダカを同薬剤で処理すると、筋節の発生が異常になり、水平筋中隔が欠失、すなわち軸上・軸下の境界が失われるが、対鰭には正常な筋芽細胞の移動が見られる。ヤツメウナギ胚をシクロパミンを含む飼育水で培養すると、処理開始のステージ依存的に発生異常が現れた。第14期以前から処理したものは、体が背側に湾曲し、頭部が大きくなり、眼胞の形成が異常になった。これらは主に神経管および脳のパターニングの異常によるもののようである。ヤツメウナギのHhは神経管のfloor plateおよび脳のZli(zona limitans intrathalamica)で発現していることが知られており、これらの領域がヤツメウナギにおいてもオーガナイザーとして機能している可能性が示唆された。一方、シクロパミン処理胚では、骨格筋組織の大きさや細胞の配置には異常が見られなかった。ヤツメウナギには真骨魚類で見られるような、速筋と遅筋の配置の領域化や、水平筋中隔の形成が起こらないことと合わせ、ヤツメウナギの骨格筋形成機構にはHhカスケードが大きく関与はしていないと考えられる。 さらに、骨格筋の発生過程において、新たな筋繊維が筋節の特定の部位から発生するかどうか調べるために、筋分化決定因子MRF(myogenic regulatory factors)のヤツメウナギ相同遺伝子を単離した。この遺伝子は筋節の外側、すなわちPax3/7遺伝子の発現領域とオーバーラップする領域で発現することを示唆する結果を得た。現在、この発現パターンのより詳細な解析と、シクロパミン処理による発現に対する影響を調べる実験を行っている。
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