研究概要 |
進化研究において、DNAやアミノ酸配列などの分子データを用いて生物種の系統関係を正しく推定するのは非常に大事である。ゲノム情報が限定されていた過去には単一遺伝子を用いた系統樹推定が主に行われたが、今はゲノム情報の量的増加により複数の遺伝子を用いた推定が可能になった。しかし、最尤法・ベーズ法の枠組みでの複数遺伝子の解析方法は報告されているものの、距離行列法の枠組みでの多重遺伝子の解析手法はまだ知られていない。配列データを単純につなぎ合わせて単一遺伝子のように扱う「Sequence Concatenation」アプローチがよく使われているが、この方法が様々な問題点を抱えているのも指摘されている。本研究の目的は「Sequence Concatenation」に依存しない、系統樹推定の距離行列法の開発にある。 前年度の研究では、「Sequence Concatenation」アプローチを使わない、系統樹推定の距離行列法を開発するに成功した。今年度では、この方法を哺乳類のデータ解析に適用し、解析手法の妥当性を検証した。先行研究で発表された、10種の哺乳類から由来する2789個の遺伝子を用いて、Boreotheria、Afrotheria、Xenarthraの系統関係を調べたのだ。距離行列法を使うと、rodentグループが外群につながるという問題が先行研究で指摘されてきたが、この問題は遺伝子サイト間の進化速度の異質性を無視することに起因することが今年度の研究で明らかになった。「Sequence Concatenation」アプローチを使うと、遺伝子の数が多い場合Afrotheria、Xenarthraが一緒にグループ化される系統樹が100%のブートストラップ確率で支持される。ところが、新しい解析手法を適用すると、BoreotheriaとAfrotheriaがグループ化される系統樹が42.4-80.0%の範囲で、またAfrotheria、Xenarthraが一緒にグループ化される系統樹は15.9-57.0%の範囲で支持されるのが分かった。この結果は2種類の系統樹がどちらも強く否定できないということを意味するし、最尤法を採用した先行研究と合致する。前年度と本年度の研究の成果はまとめて、2008年5月に分子進化の専門誌に発表した。(Molecular Biology and Evolution,25:960-971)。
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