1)N個体の社会学習者からなる無性生殖集団における繁殖、文化伝達、社会的地位の獲得、および死亡の過程を記述する個体ベースシミュレーションモデルを構築した。モデル解析により、コストをともなう名声追求行動をうながす価値観や信念が、文化伝達によって集団に侵入する条件を求めた。これは前年度に行った常微分方程式モデルの解析を補完するものである。これにより、決定論的なモデルで得られた結果が、確率過程を考慮した場合でも基本的に成立することが示された。一方で、常微分方程式モデルが有効でないようなパラメータの範囲も確認された。 2)Gavrilets and Waxman(2002)などの先行研究を踏襲しながら、性的対立の数理モデルを構築した。このモデルでは、雄のpersistence traitと雌のresistance traitの拮抗的共進化を、レプリケーター方程式を用いて記述した。基本的なモデル解析を行い、先行研究と同様の結果が得られることを確認した。 3)前年度に引き続き、ヒトにおける性的刷り込み様効果の検証を目指して、未婚カップルおよびその両親の顔写真を用いた実験を行った。実験では、恋愛関係にある未婚男女25組の顔写真、男女それぞれの幼少時における両親の顔写真、および対照となる男女の顔写真を用いて、被験者に顔の類似性を評価させた。恋愛関係にある男女の顔は対照となる男女に比べて相互に類似しているという、前年度の結果が再度確認された。また前年度とは異なり、男性の母親の顔と女性の顔の類似を示す証拠が得られた。
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