研究概要 |
真社会性種のモンゼンイスアブラムシの兵隊幼虫は,捕食者によって巣にあけられた穴を自分の体液で修復するという自己犠牲的な「ゴール修復」行動を示す。兵隊の角状管から放出された多量の分泌液は,その後次第に固まり,穴を完全に塞いでしまう。本研究課題では,生物現象として非常に興味深いゴール修復行動について,分子基盤を解明することを目的に,特になぜ分泌液が凝固するのかということに着目して,タンパク質レベルからの解析を中心に行う。 昨年度までの結果から,メラニンを合成することで昆虫の傷修復に関わるフェノール酸化酵素の発現が兵隊において充進し,分泌液中の主要成分としてゴール修復過程に重要な役割を果たしていることが示唆された。本年度は,生物の体液凝固に関わるトランスグルタミナーゼが,フェノール酸化酵素と同様に分泌液中に存在し,ゴール修復過程において,後述の基質タンパク質を架橋することを実験的に明らかにした。これらの結果から,モンゼンイスアブラムシにおけるゴール修復行動は,本来,個体の体表にできた傷を修復するための体液凝固系を利用したものであり,兵隊が凝固活性の亢進した体液を外部に分泌することにより,ゴールに生じた傷を修復していることが強く示唆された。また,分泌液凝固反応における基質となるタンパク質成分については,内部に繰り返し配列をもち,グリシンやセリンなどに富む新規タンパク質であること,ゴールごとに異なる分子量を示すという特異な性質があることがこれまでにわかっていたが,本年度の結果から,このゴール間分子量多型が,内部の繰り返し配列の数の違いによって生じている可能性が示唆された。 本研究成果は,3つの国内学会で発表され,いずれも高い評価を得た。
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