タンガニイカ湖に固有なテルマトクロミス・テンポラリスには、体サイズが大きく(約10cm)岩の隙間を隠れ家とする「岩住型」と、小さくて(約4cm)巻貝の殻を隠れ家とする「貝住型」が知られている。岩住型は湖沿岸の岩場に広く分布するが、貝住型はシェルベッドと呼ばれる巻き貝の殻を敷き詰めた底質のみに生息し、湖南部では2カ所からのみ知られている。本研究では、これらがどのように進化したのかを明らかにし、さらに分類学的整理も行うことを目的としている。本年度はこの目的を達成するため、2ヶ月に及ぶ潜水調査を実施し、以下のことを行った。1)形態調査:貝住型2集団、岩住型4集団、および近縁種1集団を採集し、成熟サイズの推定、および形態解析を行った。その結果、貝住型の成熟サイズ・最大サイズはともに岩住型の約半分であった。また2カ所から得られた貝住型は互いに似た体型を示し、岩住型とは異なることが明らかとなった。2)飼育実験:貝住型と岩住型の卵を孵化させ、様々な環境下で飼育する実験を始めた。この実験は、型による体サイズの違いが遺伝的に支配されているのかを考える上で重要であり、来年度まで引き続き行う。3)環境の定量化:型による体サイズの違いと生息環境の関係を調べるため、環境を数値化して評価した。その結果、貝住型の生息するシェルベッドでは隠れ家となる隙間が小さく、一方岩住型の生息する岩場では隙間が大きいことが示された。4)移植実験:どのような体サイズがシェルベッドで生息するのに適しているかを調べるため、様々な体サイズの岩住型をシェルベッドに放流して観察した。その結果、大きな個体はシェルベッドで生息するのに不利であることが示唆された。以上の結果から、貝住型の小さな体がシェルベッドで生息する上で重要であることを強く示すことができた。来年度は不足データの収集および集団解析・系統解析を行う。
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