本研究では無顎類ヤツメウナギ、顎口類マウス、ニワトリ、スッポン、アフリカツメガエルを用いて、三叉神経系の体性感覚地図の起源についての解析を行った。神経トレーサーを用いたラベリングから、ヤツメウナギの三叉神経節から後脳への投射機構は、他の脊椎動物と共通であることことが判明した。また、感覚地図のマスター遺伝子であるHoxa2の発現も、今回解析した全ての脊椎動物で保存されていることが明らかとなった。このようなパターンは脊索動物であるナメクジウオには見られない。したがって、三叉神経系の感覚地図を作る基本的な仕組みは、脊椎動物の共通祖先の段階で獲得されていたことが示唆された。この知見は交付申請書に記載した「実験の目的」を満たすものである。この知見に関してはBrain Research Bulletin誌に投稿し、アクセプトされた。また、研究期間中にはパリで開かれた欧州比較神経科学会(5thECCN)、ならびに米国のサンアントニオで開催された統合比較生物学会(SICB2008)に招待され、上記の知見に関して招待講演を行った。一方で、後脳にある三叉神経運動核のパターニング機構は、ヤツメウナギと顎口類で大きく異なっており、このことから三叉神経系をつくりあげる発生プログラムは、脊椎動物の進化の過程で大きく改変されてきたことが示唆された。おそらく顎の獲得に伴い、顎を制御する三叉神経運動核にも大きな変化が生じたのであろう。この知見を現在論文にまとめているところである。
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