アサガオの有色の花弁に白色または淡色の模様を生じる優勢変異体、吹雪(Blizzard)、車絞(Rayed)、覆輪(Margined)の模様形成機構の解明を行った。いずれの変異体でも、花弁色素の生合成酵素の一つであるDihydroflavonol 4-reductase(DFR)をコードするDFR-B遺伝子のmRNAの蓄積量が模様部分において低下している。各々の変異体のDFR-B遺伝子のゲノム構造の解析を行ったところ、吹雪と車絞では、両変異体の模様が大きく異なるにも関わらずDFR-B遺伝子は正常な1コピーと重複によって生じた逆反復構造を持つ2コピーの計3コピーからなる同一のゲノム構造であった。逆反復領域から転写されるヘアピンmRNAの二本鎖部分は、20nt程度の低分子RNAに代謝された後、相補する配列を持つmRNAの切断もしくは翻訳抑制に関わり転写後の段階で遺伝子の発現抑制に働くことが知られる。吹雪と車絞花弁の有色部分と白色または淡色の模様部分におけるDFR-B遺伝子のヘアピンmRNA量を比較した所、蓄積量に優位な差は観られなかったが、いずれの変異体の模様部分でもヘアピンmRNA由来とは異なるDFR-B低分子RNAが特異的に蓄積していた。これらのことから、模様部分に特異的に蓄積する低分子RNAが、DFR-B遺伝子の発現抑制を引き起こし、変異体の花弁に模様が形成されると考えている。また、古典遺伝学的な解析から吹雪と車絞の模様は複数の変異が関わり合って形成さると知られることから、DFR-B遺伝子以外の変異がDFR-B遺伝子の抑制に働く低分子RNAの産生に関わると予想している。覆輪については、吹雪と車絞の祖先型の逆反復構造を持ち約40kbからなるゲノム構造を持つことを明らかにしたので、吹雪と車絞と同様に模様形成の分子機構の解明を進めたい。
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