研究概要 |
多収化を目指したイネの品種改良は、草丈を低くし倒れにくくすることによって成功を収めてきた。しかし、さらなる多収を目指し穂を大きくする上では、このような小さな植物体では種子を十分に実らせることができないと考えられる。そのため、現在は穂と同時に植物体全体を大きくする方向で品種改良が進められている。一方、単純に地上部のみを大きくすれば多収性が実現するかというとそうではなく、水が十分にある水田においてさえ、従来の品種では晴れた日の日中に根からの吸水が蒸散に追いつかず、水ストレスが生じることにより光合成速度が低下することが報告されている。このことから、収量を上げるためには地上部を大きくすると共に、根も多くすることが必要だと考えられる。 昨年度までに本申請課題で注目した冠根形成が著しく抑制されるcrl変異体の原因候補遺伝子を同定した。そこで本年度は、相補性検定によりcrl変異体の原因遺伝子を決定するとともに、これら変異体の形態的・生理的特徴、ならびにCRL遺伝子の発現パターンを解析した。まず,野生型におけるCRL遺伝子の器官別遺伝子発現を判定量的RT-PCRによって解析した結果、冠根発生部位である茎葉部の非伸長摂関部位で高い発現が認めちれた.またその発現は、根の発生に非常に重要であることが知られているオーキシンにより誘導されることが判明した。次に本遺伝子のin situハイブリダイゼーション法によって組織レベルでの発現を解析した結果、冠根原基の形成に先立って、形成予定部位に局所的に発現することが明らかとなった.さらにCRL遺伝子を過剰発現させた結果、顕著な冠根数の増加が確認され、根系形態の遺伝的改良にとって本遺伝子は非常に有用であることが判明した。
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