自家不和合性程度は自家不和合性を利用してF1種子生産されるアブラナ科野菜において非常に重要な形質であり、純度の高いF1種子を得るためには高レベルの自家不和合性が求められる。Brassica rapa(ハクサイ類)を用いた解析では、SSRマーカーを主とする160のマーカーからなる連鎖地図を構築し、2年間にわたる自家不和合性程度の評価結果を用いてQTL解析を行った。その結果、高レベルの自家不和合性形質に関与する5つのQTLが検出された。高レベル自家不和合性形質のQTL解析はこれまでに例がなく、世界で初めて同定することができた。2年間の試験のいずれにおいても検出された2つのQTLのうち、1つめのQTLは最も高い寄与率(23.6%)を示し、主動的な働きをすると考えられた。このQTLは自家不和合性の自他認識を司るS遺伝子座と同一の連鎖群に検出されたが、F3において組み換え個体が出現することから、S遺伝子座とは独立な遺伝子座であると考えられる。2つめのQTLは、自他認識後のシグナル伝達に関わるMLPXの極近傍に検出されたことから、MLPKが本QTLの候補遺伝子として推定された。一方、B.oleracea(キャベツ)の分離集団を用いた解析では、80マーカーからなる連鎖地図を用いたQTL解析を行った結果、25%の高い寄与率を示すQTLを1つ検出した。連鎖マーカーの取得に手間取ったために、連鎖地図が不充実であるが、高レベル自家不和合性に関与する主動遺伝子座の存在が示唆された。F2での表現型の分布から複数の遺伝子座の関与が考えられ、他のQTLを検出するためには連鎖地図を充実させる必要がある。本研究によりアブラナ科野菜の高レベル自家不和合性の原因を解明する基盤を整備することができた。現在、高レベル自家不和合性個体を選抜するための実用的マーカーの開発に向けてQTL領域の詳細化を進めている。
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