研究概要 |
水稲の湛水直播栽培において,幼植物の初期生育の促進は重要である.これまで,植物ホルモンは,イネ幼植物の初期生育の促進に効果を有するとされてきた.一方,植物ホルモンは単独で作用するばかりではなく,複数のホルモンが相互作用を示す場合が少なくない.本研究では,エテホン(ET)とジベレリン(GA)が,異なる生育温度と湛水深で育成されたイネ幼植物の各器官の伸長に及ぼす影響を人工気象器による室内試験で検討した. 気温15℃において湛水深2cmにおけるET+GA区の草丈は,無処理区に比べ有意に増加したが,ET区,GA区との間には有意差がなかった.しかし,湛水深5cmでは,ET+GA区の草丈は,無処理区,ET区,GA区に比べ有意に増加した.中茎と鞘葉は,両湛水深で,ET+GA区が無処理区,ET区,GA区に比べ有意に増加したが,湛水深5cmでは,ET区とGA区においても無処理区との間に有意な増加がみられた.第1葉は,湛水深2cmではET+GA区で無処理区とホルモン単独区に比べて有意に増加した.しかし,湛水深5cmではET+GA区の第1葉は,無処理区に比べ有意に増加したが,ET区とは有意差がなかった.第2葉は,両湛水深ともET+GA区で最長となったが,湛水深2cmではGA区で,湛水深5cmではET区とGA区においても無処理区に比べ有意な増加がみられた.また,茎葉の充実度は両湛水深で,処理区間で有意差が認められなかったことから,処理による成長の促進は,徒長ではないことがわかった.気温20℃においても,15℃と同様な傾向が得られた. 以上より,ETとGAを単独で処理した場合,生育温度や湛水深によっては,幼植物器官の成長を無処理区に比べ促進したが,その促進の程度は両ホルモンを併用した方が,顕著に大きくなった.今後,その作用機構について,主に,細胞伸長に関与する遺伝子発現の点から検討する予定である.
|