近年我が国では登熟期にイネが高温に曝されることがしばしばあり、玄米収量や米の外観品質が低下してきている。高温条件下で生育した玄米では、胚乳に白色不透明部が生じるが、その部分ではアミロプラストの発達不足、あるいは異常が観察されている。そこで本研究では、高温条件下でのデンプン生合成系酵素の遺伝子発現の変化を調査するとともに、白濁部におけるデンプン特性の変化を乳白・背白といった粒のタイプ別に調査し、米の粒重低下や白濁化に関わると考えられる遺伝子を考察した。以下に結果の概要を示す。 1)アミロース合成に関わる粒結合型デンプン合成酵素(GBSSI)やアミロペクチンの鎖長分布に関わるデンプン枝付き酵素(BEIIb)の遺伝子発現か高温により低下しており、再現性が確認された。 2)白未熟粒のうち背白粒と乳白粒が多く発生したため、それぞれの粒の白濁部を特異的に削り取り、アミロースやアミロペクチンなどのデンプン特性を調査した結果、両白未熟粒でアミロペクチンの鎖長分布に一致した変化がみられなかったものの、アミロース含量は有意に低下していた。 以上の結果より、高温により発生する白未熟粒に関して、アミロペクチンの鎖長分布に関わるBEIIbは白濁の形成に直接的には関与しない一方、GBSSIの発現低下が白濁部のアミロース含量低下に関係する可能性が示唆された。ただし、白濁部におけるアミロース含量の低下は3-4%であったため、この程度の低下が白濁に直接関与するかどうかはさらに調査が必要であると考える。
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