最終年度では、主にマニラにおいて、地形改変に関する未取得データの収集を行うと同時に、バンコク・マニラ両都市の地形改変環境負荷の定量評価を進めた。具体的には、住宅地開発を事例に、オンサイトの物質投入量(重量単位)・オフサイトの物質掘削量・オフサイトーオンサイト間物質輸送に伴うCO2排出量を、GIS空間・ネットワーク解析により推算した。 その結果、大陸デルタに位置するバンコク首都圏においては、高層住宅地開発に伴う砂材投入量が大きく、100km以上の運搬距離に起因し、輸送による環境負荷も大きいことが分かった。一方で伝統的な戸建住宅の開発はオンサイトの地形改変(掘削粘土の有効利用)が主体であり、土建材の広域輸送は見られず、環境負荷も比較的小さい。 マニラ首都圏においては、台地上の大規模開発で60km遠方の土石掘削地域からの物質移動が見られ、エネルギー排出負荷も大きい。一方低湿地のスプロール開発では、台地上の建築廃材・ガラが基盤造成に使用されており、輸送距離が小さいため排出負荷も抑えられていた。しかしながら、非衛生的な宅地基盤埋立造成に起因し、水質汚染問題が生じている。 両都市の地形改変パターンと環境負荷は、大陸デルタ型のバンコク首都圏と島弧低湿地型のマニラ首都圏という、大地形の違いにより対照された。すなわち、オンサイト開発に有利な大規模敷地に恵まれている大陸型のバンコクでは、オフサイトの土建材掘削地までの距離が遠いため、多様な宅地開発パターンにより物質投入量・輸送排出量も大きく変動するのに対し、島弧のマニラでは、オンサイトの開発適地が少ないため、宅地開発パターンも限られており、土建材フローも定常的となる。 今後の課題としては、事例研究都市の追加、地形改変がもたらす他の景観要素(植生等)の変化とそれに伴う物質量変動、環境負荷計測が想定される。
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