2008年度は鳥類についてこれまで実施してきた研究をとりまとめ、「エコロジカルネットワークによる都市の生物多様性向上」と題した総説を都市緑化技術に投稿した。本研究では都市域においてエコロジカルネットワークを構成する要素としてコリドーに着目し研究を進めてきたが、街路樹のような貧弱なコリドーにはネットワークの構成要素として限界があることも明らかになってきた。コリドーは大規模な緑地(大阪市中心部の研究では2ha以上とした)に接続する場合には利用されるが、そのような種の供給源が存在しない場合にはほとんど利用されない。一方で、マンチェスター中心部の住宅地、大阪市中心部の商業地、コペンハーゲン郊外の住宅地で実施した調査からは、これまでマトリックスされ、ほとんど注目されてこなかった住宅地や商業地の植生が鳥類に利用されており、緑被率がネットワーク構築において重要な役割を果たすことが明らかになってきた。これらについてはそれぞれ現在論文としてとりまとめ中である。また、追加的な調査として、静岡県熱海市の郊外に位置する緑被率が非常に高い住宅地において2008年末から2009年2月にかけて越冬期の鳥類調査を実施した。こちらはデータを分析中であるが、我が国においても緑被率が30〜50%と非常に高ければ、住宅地であっても周囲の樹林地と種組成がそれほど変わらないことが明らかになってきている。 研究計画時点では、エコロジカルネットワークの指標としてトンボ類も対象としていた。鳥類同様に、大阪市中心部や東京近郊において予備調査を行った結果、あまり多くの種が記録されなかったため、今年度は種が数多く農村地域において実施した調査結果を分析し、トンボ類ではネットワーク形成に何が重要な要因となるか検討した。その結果、水草が存在するため池の存在が重要であることが明らかになった。
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