ウイルスの適応度が環境によってどのように変化するのかを明らかにすることを全研究期間の達成目標にすえ、今年度は、昆虫ポックスウイルスの分離と遺伝子型解析法の確立を目標にした。 研究は、計画どおり遂行された。多数の昆虫ポックスウイルスに感染したチャハマキおよびチャノコカクモンハマキを異なる地域、樹種から採集できた。本ウイルスは、茶樹において高い有病率で感染しており、チャノコカクモンハマキ個体群における有病率の方がチャハマキ個体群における有病率よりも、高い傾向にあった。高速冷却遠心機を駆使し、ウイルスを効率的に精製する方法を確立した。また、一頭の虫に数遺伝子型のウイルスが多重感染している場合もあるが、その感染虫から抽出したごく少量のウイルスを昆虫に接種し、感染させる操作を繰り返すことで、ウイルスを純化できることを明確にした。また、本ウイルスゲノムのRFLP(制限酵素断片長分析)とサザンハイブリダイゼーション分析によって遺伝子型を解析できることがわかった。さらに、本ウイルスの構造たんぱく質の遺伝子を解析し、本ウイルスをPCR-RFLP法によって同定できる方法を開発した。 この構造たんぱく質遺伝子、スフェロイディンは約3000塩基からなり、燐翅目の昆虫から分離された昆虫ポックスウイルスのスフェロイディンと相同性が高く、保存された遺伝子であるが、多少の変異も認められた。これらの遺伝情報を利用し、鱗翅目の昆虫ポックスウイルスのスフェロイディン遺伝子を増幅できる縮重プライマーを設計できた。増幅産物をRFLPにより解析することで、ウイルス種の同定をすることを可能にした。
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