微生物防除の欠点として防除効果が、環境によって変動し、不安定であることがあげられるが、この一因は、野外では、微生物が宿主に与える影響は、環境によって変化し、いつでも一定ではないためかもしれない。すなわち、ある環境で有利なストレインも異なる環境では、不利で別のストレインの方が有利であるという可能性がある。しかし、このような点は、これまでほとんど研究されてこなかった。本研究は、ハマキガとウイルスをモデルシステムとして研究し、ウイルスの適応度が環境によってどのように変化するのかを明らかにすることを目的とし、これをもって微生物防除の高度化に資することを目指すものである。以下に結果の概要を記述する。野外から採集した感染虫から分離純化したウイルスを、構造蛋白遺伝子のPCR-RFLP法および、ウイルスゲノムのRFLPとサザンハイブリダイゼイゼーションによって、ウイルス種の同定を行うとともに、ウイルス種内の遺伝子型を解析した。その結果、ウイルス種内の変異が研究期間を通じて著しく高いことが明らかとなった。この多様性が維持される機構の1つとして、ウイルス遺伝子型の適応度が宿主や宿主の寄主植物によって変化することを考え、生物検定を行った。昆虫ポックスウイルスの数遺伝子型を供試し、チャノコカクモンハマキおよびチャハマキに対して、生物検定を行い、感染性や娘ウイルスの生産性を調査した。その結果、ウイルス遺伝子型間に、感染性や生産性に変異があり、それらは、昆虫種によって影響を受けることが明らかになった。また、人工飼料とチャノキおよびマサキを昆虫の餌として同様に調査したところ、これら昆虫が摂食する餌によっても、感染性やウイルス生産性が影響を受けることも明らかとなった。これらのことから、ウイルス遺伝子型の適応度形質が宿主や宿主の寄主植物と交互作用していることが明らかになった。微生物防除においてストレインを選択する場合、ストレインと環境との交互作用を考慮し、適切に施用することで、より安定した効果が期待できる可能性が示された。
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