研究概要 |
生物農薬として販売されているタイリクヒメハナカメムシは微小重要農業害虫アザミウマ類の捕食性天敵として知られ、各地の施設栽培野菜で使用されているが、本種はわが国に土着であり、施設外に分散して定着したり、野外個体群との交配を通じて遺伝的撹乱を起こすという懸念がある。また、わが国野外での本種の分布地域は関東以西の海岸部に限られるが、近年の気候の温暖化現象に伴い、その分布を北方に広げてきたと考えられている。他のOriusは広範囲に分布しており、本種の分布拡大過程を詳細に解析することが、種間競争の解明や地球温暖化の影響を明らかにするためには、必須である。本研究課題では、種内多型に富んだマイクロサテライトマーカーの作出・解析を通してこれら問題を解明する。 本年度は、昨年度開発したナミヒメハナカメムシ8遺伝子座に加え、新規1遺伝子座およびタイリクヒメハナカメムシの5遺伝子座(Hinomoto et al., 2006)の増幅確認を、コヒメハナカメムシを加えた3種9個体群で行った。異種で開発したマーカーのヌル対立遺伝子頻度は同種のものと比べて約2倍あり、種を超えたマーカーの利用は注意を要することがあきらかになった。 地理的距離と遺伝的分化の程度をマイクロサテライトマーカー遺伝子頻度を用いたFst値を用いて比較すると、タイリクヒメハナカメムシでは有意な正の相関が見られたが、ナミヒメハナカメムシでは見られなかった。このことから、タイリクヒメハナカメムシのほうが移動分散能力に劣り、遺伝子交流範囲も狭いものと推察された。
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