微量必須元素ホウ素の欠乏による障害発生メカニズムについて研究を行なった。 タバコ培養細胞BY-2をホウ素欠除培地に移植すると72時間以内に大半の細胞が死に至る。研究代表者らのこれまでの研究において、低ホウ素培地に馴化した細胞では抗酸化酵素遺伝子の転写量が増大していることが明らかとなっており、ホウ素欠乏で酸化障害が発生することが予想された。そこで今回はホウ素欠乏で実際に酸化障害が発生しているか検討した結果、欠除処理開始直後から過酸化水素が発生していること、細胞死に先立って過酸化脂質が蓄積すること、抗酸化剤ブチルヒドロキシアニソール添加により細胞死が抑制されることを見出した。これらの結果はホウ素欠乏による細胞死が酸化障害によるものであることを裏付ける。 この細胞死にプログラム細胞死(PCD)が関与しているか検討したが、PCDの特徴であるa)DNAのラダー化、b)抗酸化酵素遺伝子の発現抑制、c)グルタチオン含量の低下、はいずれも起っていなかった。このことからホウ素欠乏による細胞死はネクロティックであると結論した。欠除処理開始48時間の時点でホウ素を再添加するとその時点で生存している細胞は再び増殖を開始することも、この推論を支持する。 ホウ素欠乏時の遺伝子発現変化についても検討した。欠除処理1時間の細胞と対照細胞の間でcDNAディファレンシャルサブトラクションを行なった。また既知のストレス応答遺伝子の発現をRT-PCRで解析した。この結果ホウ素欠除処理では15分以内にサリチル酸誘導性遺伝子の発現が上昇することを見出し、欠乏シグナルの伝達経路にサリチル酸が関与することが示唆された。また欠乏で誘導される変化をより包括的に解析する目的で、東京大学・理化学研究所と共同で処理1-36時間の細胞についてcDNAマイクロアレイ解析を実施した。現在結果の解析中である。
|