研究概要 |
シトクロムP450モノオキシゲナーゼ(P450)は、その分子多様性から酵素的化学品合成、いわゆるバイオプロセスへの応用が期待される生体触媒である。一方で、本酵素の機能的発現には、特定のレドックスパートナーやエネルギー代謝によって産生される還元力の供給など、目的酵素自身に加え、それを内包する宿主微生物細胞に由来する因子の存在が不可欠である。これら目的酵素を取り巻く反応場、すなわち触媒微生物内のボトルネック因子の解明を目的とし、大腸菌1遺伝子破壊株ライブラリーを宿主とした網羅的スクリーニングを行った。 前年度までに約4,000株からなる遺伝子破壊株ライブラリーのスクリーニングを実施・完了した。この結果、野生株に比べ目的酵素の活性を約2倍にまで高めうる4株め遺伝子欠損株に着目し、P450活性の向上が対象遺伝子の不活化によるものであるかをin-flame deletion株の作成と相補実験により確認した。この結果、それぞれcpxA、gcvR、glnL遺伝子を欠損した3株においては期待どおり対象遺伝子の破壊がP450活性の向上に寄与していることが確認された。これらの遺伝子破壊株は栄養培地上で野生株と同程度の増殖を示し、その比活性のみが向上していることから、実生産上も有意義な変異であることが認められた。 P450以外の酵素生産および触媒活性を調査したところ、β-ガラクトシダーゼをマーカー遺伝子とした場合にcpxA欠損株において野生株に比べ2〜3倍程度の活性の増大が認められた。CpxAは大腸菌の細胞膜ストレス応答タンパク質として知られており、この欠損株では膜構造が脆弱化し、基質・生成物の透過性が向上したことが、酵素活性増大の原因と考えられる。
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