放線菌Streptomyces albulusの二次代謝産物として生産されるε-PLは、L-リジンのε-アミノ基とα-カルボキシル基がペプチド結合でつながった25〜35残基からなる直鎖状のアミノ酸ホモポリマーである。ε-PLは、幅広い抗菌スペクトラムと高い安全性を併せ持ち、現在、天然物系抗菌剤として実用化されている。興味深いことに、本化合物の抗菌活性はL-リジンの鎖長に依存し、9mer以上ではじめて抗菌活性を示す。他方、50merの鎖長を有するα-PL(α-アミノ基とα-カルボキシル基がペプチド結合で連結)は抗菌活性を殆ど示さない。以上のように、ε-PLにおけるL-リジンのイソペプチド結合は抗菌活性に極めて重要であり、それを構築するε-PLの生合成酵素においては、(1)L-リジンの「ε」と「α」位の認識機構、(2)構成アミノ酸の基質特異性、(3)ペプチド鎖長の決定機構、これら3点が特に興味深い。 そこで、平成18年度は、ε-PLの生合成遺伝子の取得を主目的とし、当初の研究計画通り、ε-PL分解酵素遺伝子(pld遺伝子)の近傍領域の解析、および、ε-PL生合成閉鎖株の取得を行った。pld遺伝子の近傍領域約30kbの塩基配列を決定したところ、残念ながらε-PLの生合成遺伝子と思われる遺伝子を見出すことはできなかった。ε-PL分解酵素は複数あることが知られており、ε-PLの生合成遺伝子は、その他のε-PL分解酵素遺伝子とクラスターを形成していると考えられる。そこで、ε-PLの生合成遺伝子のショットガンクローニングを目的に、ε-PL生合成閉鎖株の取得を行い、複数の候補株の取得に成功した。現在、これら株を宿主として用いた-PLの生合成遺伝子のショットガンクローニングを行っている。また、ショットガンクローニングが計画通り進展しない場合を想定し、ε-PL生合成酵素の精製を開始した。
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