研究概要 |
本研究では,タンパク質のリン酸化による種子貯蔵物質蓄積の制御に着目し、イネ登熟種子におけるリン酸化タンパク質の網羅的解析および、そのタンパク質の機能解析を目的とした。 イネ登熟種子より得られた粗抽出液を陰イオン交換および疎水クロマトグラフィーにより部分精製を行なった。得られた溶出画分を一次元および二次元電気泳動に供し、泳動後のゲルをPro-Q Diamond Gelstainを用いて染色することで、リン酸化タンパク質を検出した。得られたタンパク質バンド(スポット)は、トリプシンによるゲル内消化後、MALDI/TOF-MS解析により同定された。その結果、nucleoside diphosphate kinase 1やRNA binding protein 120、Heat shock protein 82(Hsp82)など7種類のリン酸化タンパク質が同定され、これらのタンパク質がリン酸化により機能制御を受けていることが示唆された。 同定されたリン酸化タンパク質の中から、登熟種子におけるタンパク質の存在量やリン酸化度の高さから、特にHsp82に注目した。Hsp82はレトロトランスポゾンによる遺伝子破壊株が存在し、その種子は低稔性を示すことが知られており、種子形成に重要なタンパク質であると予想された。Hsp82をコードするcDNAは、登熟種子から抽出したmRNAの逆転写産物を鋳型としたPCRにより単離した。Hsp82のアミノ酸配列に基づいたドメイン検索からN末側にはATP加水分解に必要なH^+ATPase領域、C末側にはシグナル伝達タンパク質の機能と安定性を調節する分子シャペロンHsp90領域が確認された。また、同定したHsp82とGFPの融合タンパク質を35Sプロモーターで発現するバイナリーベクターを作成し、パーティクルボンバードメント法によりタマネギ表皮細胞内に導入し、細胞内局在を観察した。 その結果、細胞質で強い蛍光が観察されたことから、本Hsp82は細胞質において機能していることが示唆された。RT-PCRを用いた発現特性の解析から、本遺伝子が種子のみならず、葉やカルスにおいても発現することが確認された。現在、アンチセンス体の作製やリン酸化部位の同定を試みている。
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