本年度は、Pseudomonas sp. YL由来のハロ算脱ハロゲン化酵素(L-DEX YL)とそも典型的な基質であるL-2-クロロプロピオン酸(L-CPA)との基質-酵素複合体をドッキングシミュレーションにより作製し、分子動力学計算によりその複合体の構造変化を追跡した。その結果、活性部位の入口付近に存在して活性部位の入り口の開閉に関与していると思われる41番目のアルギニンが、44番目のグルタミンによって制御されているかのような計算結果が得られた。グルタミンをアラニンに置換した変異体では、分子動力学計算による2000ps後の構造において、41番目のアルギニンが44番目のグルタミンの制御を受けなくなったことで、活性部位の入口を閉じる状態から開く状態へと変化した。このことから、このグルタミンをアラニンに置換した変異体では、酵素活性が大きく減少することが考えられる。以前の研究でL-DEX YLについて様々な残基の役割が変異体導入実験により示唆されているが、今回の44番目のグルタミンの役割については、初めての報告になる。現在、このグルタミンを置換した変異体を作製して酵素活性を測定し、実験による確認を行っている。 また、活性部位付近にする177番目のアスパラギンの役割について、同様に分子動力学計算から考察したところ、アスパラギンをアラニンに置換した変異体の計算結果では、反応に関与する触媒水の位置が本来の位置から大きく移動することが明らかになった。このことから177番目のアスパラギンが触媒水の固定に関与している可能性が示唆された。こちらの方は、いくつかの変異体による実験結果が報告されているので、それらの知見も考慮しながらより詳細な実験、もしくは計算を行っていきたいと考えている。
|