本申請課題では、有害物質分解や有用物質生産に利用できる可能性のあるハロ酸脱ハロゲン化酵素L-DEX YLについて、その反応機構を分子動力学(MD)計算や量子化学計算により分子レベルで解明し、得られた知見を基に、より高機能な酵素をデザインすることが可能であるか検討することを目的としている。 昨年度の方法では、L-DEX-YLの典型的な基質である2-クロロプロピオン酸(CPA)のカルボン酸部分を解離させていない構造を用いて、L-DEX YLとCPAとの複合体構造のMD計算を行っていたため、実験系を反映しておらず計算結果が信頼できない可能性があった。そこで、今年度はまずこの部分をカルボン酸イオンにした基質の量子化学計算から、MD計算に必要なパラメータを算出しそれを用いてMD計算を行った。そして、その結果から複合体の平衡構造を決定し、フラグメント分子軌道(FMO)法を用いて、平衡構造における基質や触媒水と、酵素との相互作用エネルギーを算出し、どのアミノ酸残基が基質や触媒水と相互作用しているのか推測した。 その結果、Lys151とAsp180がCPAと特に強い相互作用を示した。また、Asp180は酵素の中で触媒水と最も強く相互作用していた。さらに、Lys151とAsp180はお互いに非常に強く相互作用していた。これら2つの残基が活性に重要であることは既に実験で報告されでいる。そこで、これらの残基の役割をさらに調べるため、変異体(Lys151Ala、Asp180A1a)をコンピュータ上で作成し、MD計算、FMO計算により解析した。計算結果から、Lys151は基質の固定、活性部位内の電荷のバランス調整に関与していることが示唆された。また、Asp180については触媒水の固定と、基質へ求核攻撃を行うAsp10がLys151と近づきすぎるのをブロックする役割があるのではないかと考えられた。
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