骨格筋の線維型は、脂肪酸酸化能が高く抗疲労性で収縮速度が遅い遅筋線維(I型)と、解糖能が高く易疲労性で収縮測度が速い速筋線維(II型)の2種に大きく分けられる。骨格筋に多く発現している核内受容体PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)δは、有酸素運動に伴い発現が上昇し、標的遺伝子である脂質代謝関連タンパク質の発現を促進させることが分かっている。さらにPPARδの過剰発現は骨格筋の遅筋化を引き起こすことが分かっている。脂肪酸はPPARsのリガンドとなることから、『骨格筋内に流入する脂肪酸が増加するPPARδが活性化され、それに呼応して筋細胞は脂肪を燃やす装置すなわち遅筋型筋線維へ変化し、過剰の脂肪を減少させる』という仮説を立てた。本研究計画の目的は、実験動物の骨格筋に脂肪酸が生理的に高濃度で作用する栄養条件が骨格筋の遅筋化を引き起こすか生体レベルで明らかにすることである。 生理的に脂肪酸代謝が向上する条件として以下の条件を設定した。(1)絶食;48時間絶食、(2)寒冷暴露;室温6℃で4wk、(3)高脂肪食給餌;30%高脂肪食で4wk。以上の条件下で、ラットを飼育した。血中遊離脂肪酸は絶食と寒冷暴露で有意な増加が観察されたが、高脂肪食群では普通食と有意な差はなかった。骨格筋中に含まれるミオシン重鎖アイソフォーム存在比率は筋線維型の指標となる。ミオシン重鎖をSDS-PAGE法により分離し、その割合を解析した結果、長趾伸筋で、48時間絶食により速筋型の増加が起こり、寒冷暴露によりわずかに中間型が増加した。高脂肪食給餌では変化は観察された無かった。同じ脂肪酸酸化の亢進が生じているにも関わらず、逆の応答が観察された点については今後の検討課題だが、本研究により骨格筋が脂肪酸なでの栄養条件に応答し、筋線維型を変化させる可能性が示された。
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