「こく」は「甘い」「苦い」などの味の質ではなく、食品の味の厚みや広がりなど味の質をこえた表現であり食品の美味しさを表現するのに欠かせない言葉であるが、共通の定義が存在していない。また、「甘味」、「苦味」のような味の成分を代表する言葉としての「こく味」なる言葉も出現するようになるなど、「こく」は注目されているにも関わらずその作用機序についてはほとんど明らかにされていない。本研究は「こく」の実体をつかむための手がかりとして、「こく」と甘、苦、酸、塩、うま味といった基本味との関係を明らかにすることを目的とした研究を行っている。本年度は、グルタチオンで引き出されることが明らかな「こく」と甘味・うま味との関係を調べた。甘味受容体Tlr2/Tlr3あるいはうま味受容体Tlr1/Tlr3と受容体に共役するGタンパク質が恒常的に発現しているHEK293細胞を使用して、甘味やうま味物質にグルタチオンを添加することによる応答強度の変化をカルシウムイメージング法を用いて調べた。その結果、グルタチオンを添加することにより甘味応答が10%程度抑制され、逆にうま味応答が10%程度増強されることが明らかとなった。 また、甘味、苦味、うま味情報伝達に共通して関与するチャネルであるTRPM5の遺伝子についてもHEK293細胞に恒常的に発現する系の構築を行った。この発現系を用いてナトリウムイメージング法を行いTRPM5の開閉の評価法の条件検討を行った。 さらに、グルタチオンの「こく」の官能評価を行ったところ、感受性が個人レベルでばらつきがあることが明らかになった。また、この個人差は苦味物質プロピルチオウラシルの感受性の差とは関係ないことも明らかにした。
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