「こく」は「甘い」「苦い」などの味の質ではなく、食品の味の厚みや広がりなど味の質をこえた表現であり食品の美味しさを表現するのに欠かせない言葉であるが、共通の定義が存在していない。また、「甘味」、「苦味」のような味の成分を代表する言葉としての「こく味」なる言葉も出現するようになるなど、「こく」は注目されているにも関わらずその作用機序についてはほとんど明らかにされていない。本研究は「こく」の実体をつかむための手がかりとして、「こく」と甘、苦、酸、塩、うま味といった基本味との関係を明らかにすることを目的とした研究を行った。「こく」を示すことが知られている含硫化合物およびアミノ酸誘導体複数種について、甘味、うま味との関係を調べた。甘味受容体およびうま味受容体を恒常的に発現する細胞を使用して人工甘味料アセサルファムKあるいは、グルタミン酸とイノシン酸の混合物にこれらの呈味成分を添加することによる、甘味・うま味応答性の変化をカルシウムイメージング法で解析した。その結果、これらの物質は甘味・うま味受容体細胞に対して有意な細胞応答を引き起こさず、甘味、うま味受容体との関係は大きくない可能性を示した。また、独特の風味を持つ有機酸とうま味受容体関係も解析したが、うま味受容体細胞を惹起しなかったことから、既知のうま味受容体とは関係ない経路を介する可能性を示した。また、甘味、苦味、うま味の情報伝達に関与する可能性の高いNa K ATPaseレギュレーターFxyd6を恒常的に培養細胞に発現させ、ATPase活性を指標とした評価系を作製した。さらに、塩味と「こく」との関係を解析するために、塩味受容体候補分子であるENaCを一過的に培養細胞に発現させ、塩味応答をナトリウムイメージング法で可視化して観察する系を作製した。
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