ニホンジカ(下シカ)の全国的な密度増加の一要因として、林冠開放をともなう撹乱により繁茂した下層植生がシカの餌資源となったこと(撹乱-シカ増加仮説)が指摘されている。本研究は、2004年台風18号により大面積で風倒が発生し、かつシカ高密度分布域周縁部に位置するとされる、北海道南西部の支笏湖東岸〜樽前山麓域において、大規模撹乱後初期の下層植生とシカによる利用度の推移を記録し、上記仮説を検証するための基礎データを得ることを目的とする。 初年度は、関連資料の収集とともに、秋期と晩冬期にシカの生息分布調査を実施した。広域なシカの生息動向と比較できるよう、10月下旬に北海道内のほぼ全市町村で一斉に行われるスポットライト・カウント(以下SC)に合わせ、国有林内の林道(4.3〜28.9kmの11路線、総延長142.0km×2回)でSCを実施した。その結果、距離あたり発見数は0.0〜10.8頭/kmを得た。この値は、周辺域の0.0〜9.8頭/km(北海道環境科学研究センター提供データによる、1999〜2005年の胆振支庁管内市町村森林部のSC結果)と同程度であった。ただし、発見総数61頭のうち29頭(47.5%)は、風倒木撤去後(地拵・植付の前)の雑草地化した開放地で発見された。(人為を含む)撹乱後の経過時間や抽出する空間スケールによっては、局所的には強度に利用されている可能性が考えられた。 一方、3月上旬に実施した日中のロード・カウントから、支笏湖東岸南西斜面沿線(7.4頭/km)では30を越える群れが複数観察され、越冬地としての集中利用が確認された。これらの地域では、既に樹皮剥ぎや下層植生の衰退が顕在化していた。風倒跡地を餌場としてさらにシカ密度が増加した場合に、越冬地がどのように拡大されるのか予測するための環境データを得る必要がある。
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