これまでに蓄積したデータ解析より、樹皮呼吸と樹皮光合成には温度と光環境だけでなく、外気CO2濃度が影響している可能性が示唆された。樹皮はガス透過性が極めて低いために呼吸で発生したCO2が樹体内に蓄積する。そのため、樹皮呼吸と光合成は高CO2濃度下で行われており、CO2はその律束要因ではないと考えられていた。樹皮光合成、呼吸速度がCO2濃度によって大きく左右されるならば、その影響を考慮する必要がある。そこで平成20年度は当年枝の樹皮呼吸、光合成と環境要因の関係を重点的に調べた。 樹皮呼吸はCO2濃度に影響されないのに対して、樹皮光合成はCO2濃度の増加に伴い直線的に増加し、CO2=2000ppmでも飽和することはなかった。その傾向は1年を通して見られたが、傾きと切片(外気CO2濃度が0ppmのときの樹皮光合成速度)は大きく季節変化した。傾きは開葉直後(5月)に最も高く、6月に急激に低下し7月に最低値を記録した。その後は翌年の3月までほぼ一定値で推移した。360ppm(大気条件)の樹皮光合成速度は2000ppmに比べて20〜80%も大きかった。従来の仮定とは異なり、樹皮光合成はCO2濃度に律束されることがわかった。切片は一年を通して正の値を示した。傾きと同様に、5月に最大値を示し6月に急激に低下したが、その後は翌年3月までゆっくりと低下する傾向を示した。切片は360ppmにおける樹皮光合成速度の60〜90%を占めたことから、外気CO2濃度に左右されない光合成組織の存在が示唆された。樹皮光合成のCO2に対する反応機構は従来の仮定よりも複雑であり、CO2収支の正確な予測にはこれらの反応を考慮する必要があるといえる。
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