研究概要 |
アジア地域に分布する多様な植生のガス交換の環境応答とその順応性の理解が.地球環境間題に対する植生の役わりを明確にするため重要課題となっている。森林のガス交換特性は水利用効率と気孔コンダクタンスを指標として評価することができ、それぞれ葉有機物の炭素安定同位体比(δ^<13>C)と酸素安定同位体比(δ^<18>O)に反映することが理論的に示されている。そこで、暖温帯広葉樹林(兵庫県・関西電力赤穂発電所),暖温帯針葉樹林(滋賀県・京都大学桐生水文試験地),冷温帯広葉樹林(北海道・北海道大学苫小牧研究林),熱帯雨林(半島マレーシア・パソ自然保護林),熱帯雨林(ボルネオ・ランビル国立公園,半乾燥地(中国内モンゴル・毛烏素沙地),乾燥地(ウズベキスタン・キジルクム砂漠)かいて、葉有機物のδ^<13>Cとδ^<18>Oの測定とポロメーターを用いたガス交換測度の測定を行い,理論の検証を行うとともに植生のガス交換特性の評価を行った。蒸散にともなう葉有機物の酸素安定同位体濃縮(^<18>Δ)は、理論的には相対湿度と温度,気孔コンダクタンス,セルロース合成時の酸素安定同位体交換率などによって決まる。葉有機物の^<18>Δは相対湿度と温度の増加にともない減少したが、同じ調査地でも^<18>Δの値に幅があった。また、葉有機物の^<18>Δは気孔コンダクタンスの影響を考えない自由水面蒸発による同位体濃度を表現したCraig-Gordonモデルの予測値とは大幅にずれていた。さらに、葉有機物の^<18>Δは気孔コンダクタンスの増加にともない減少する傾向があった。これらの結果は、葉有機物の^<18>Δが気孔コンダクタンスを反映することを支持した。水利用効率と相関のある葉有機物の炭素安定同位体分別(^<13>Δ))の増加にともない,葉有機物の^<18>Δは減少した。熱帯雨林の樹木は^<18>Δが小さく^<13>Δが大きかったこと,半乾燥地の樹木はその逆であったことから、熱帯雨林では気孔コンダクタンスが大きく水利用効率が小さい,半乾燥地では気孔コンダクタンスが小さく水利用効率が大きいと考えられた。以上より,葉有機物の^<13>Δと^<18>Δが葉のガス交換特性の評価に有効であること,葉のガス交換特性が生育場所の水分環境(利用可能水分利量)に応じて決まっていることが示唆された。
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