研究概要 |
アジア地域に分布する多様な植生の二酸化炭素・水蒸気交換がどのように環境に応答するのかについての理解が, 地球環境問題に対する植生の役わりを示すための重要課題となっている。植生の二酸化炭素・水蒸気交換特性は水利用効率と気孔コンダクタンスを指標として評価することができ, それぞれ葉の有機物中の炭素と酸素の安定同位体比に反映することが理論的に示されている。このうち, 葉の有機物中の酸素安定同位体比と気孔コンダクタンスの関係については, 野外での検証例がほとんどない。そこで, マレーシアやタイの熱帯林と中国・ウズベキスタンの乾燥地植生において現地観測を行い, 理論の検証を行った。 葉内水の酸素安定同位体比がどのように蒸散量(あるいは気孔コンダクタンス)を反映するのかを検討した。その結果, 日中は環境条件, 気孔・葉面境界層抵抗, 蒸散に伴う葉内での水の移流・拡散を反映して決まること, 朝夕は非定常の水移流の影響も加わることがわかった。さらに, 葉組織中のセルロースの酸素安定同位体比がどのように葉内水の酸素安定同位体比を反映するのかを検討した。その結果, セルロースの酸素安定同位体比は葉内水の酸素安定同位体比を長期平均的に反映した値であること, ただし, 酸素原子交換率や着葉期間の樹種間差を考慮しなくてはならないことがわかった。このように, 葉の有機物中の酸素安定同位体比から植生の蒸散特性を評価する手法の適用可能条件を示すことができた。
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