本研究の目的は、地震による水文・侵食環境の変化とその後の回復過程、およびそれを支配する要因について現地調査と現地観測に基づいて明らかにするとともに、地震後に発生した土石流の流出モデルを作成することにより、土石流の発生と規模を経年的に予測し、防災に生かすことである。本年度は、(1)調査流域における斜面崩壊の分布およびその履歴の調査、(2)調査流域における斜面崩壊発生後の植生回復の調査、(3)調査流域における水文観測を行った。得られたおもな結果をまとめると次のようになる。 1973年、1974年、1984年、1989年、1993年、1996年、1997年、1999年および2005年に撮影された9組の空中写真を判読し、調査流域である花崗岩流域における斜面崩壊の分布およびその履歴、斜面崩壊発生後の植生回復について調査を行った。その結果、地震発生直後では斜面崩壊は小さな降雨条件で発生し、その後時間の経過とともに発生降雨条件は緩和されていくものの、地震から約12年経過した2005年時点の崩壊発生の降雨条件と、地震発生前のそれと比較すると水文環境は十分な回復に至っておらず、2005年時点においても回復過程にあることが明らかになった。さらに、調査流域である花崗岩流域の地下水流出の空間的分布は、pH、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオンおよび地形・地質構造(緩斜面分布、風化物の厚さ・粒径など)と関連させることで概ね説明可能であることを示した。
|