森林流域の水源涵養機能として、森林の存在が降雨に対する流出をコントロールする能力に関心が高まっている。しかし、この能力は森林の有無のみに依存するものではなく、森林土壌の状態が大きく影響することが従来から指摘されている。本研究のこれまでの成果として、森林土壌に加えて流域の基岩地質が流出特性を決定する第一の要因であることを示してきた。本年度の研究では、水の安定同位体指標を用いた、地下水・渓流水の平均滞留時間の推定値が、これらの山地の降雨流出特性を反映していることを明らかにした。降雨の増減に対する流量の増減応答が激しい性質を持つ堆積岩流域では滞留時間が短く、一方、応答が緩やかな花崗岩流域では滞留時間が長くなることが示された。また、堆積岩流域内、花崗岩流域内それぞれ支流域間の滞留時間の相違は、流域の標高や地下部の集水構造を反映していることが明らかになった。すなわち、比較的容易に測定可能な安定同位体指標を用いることで、流域の降雨流出過程を整理することが可能になることを明らかにした。この知見は、森林流域の水源涵養機能を正確に評価する上で有効な手段であり、汎用性が高く、基礎として考慮されるべき指標である。また、これらの流出特性を考慮し、北米で開発された流域の渓流水質を再現する生物地球化学モデルを適用した。その結果、アジアモンスーン地域に属する日本の流域では、この気候特性に起因する水文特性を考慮・反映したモデルの改良を行う必要性が明らかになった。
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