研究概要 |
本研究は、スギEST情報を利用して雄性不稔性に関わる遺伝子を特定することを目的としている。当初は、既知の雄性不稔遺伝子等と相同なスギESTを検索することにより、スギの雄性不稔原因遺伝子の特定を試みたが、候補となる遺伝子を絞り込むことは困難であった。そこで、雄性不稔個体と正常個体の雄花で発現する遺伝子を網羅的に解析し、発現量の異なる遺伝子を抽出することを試みた。 雄性不稔形質と関連する遺伝子を調べるため、9月下旬(花粉母細胞期)、10月中旬(減数分裂期)、11月初め(小胞子期)に正常個体と雄性不稔個体の雄花から抽出したRNAを用いて、正常雄花と雄性不稔雄花で発現量の異なる遺伝子を網羅的に解析した。解析には、昨年度に作製したDNAマイクロアレイを用いた。このマイクロアレイは、スギEST情報を統合して得られた22,882のクラスタ配列について、それぞれのセンス鎖とアンチセンス鎖両方の転写産物量を解析することが可能である。 解析の結果、正常個体と雄性不稔個体との間に4倍以上の発現量の差が見られた転写産物数は、花粉母細胞期と減数分裂期ではそれぞれ20あまりであるのに対して、雄性不稔個体で小胞子が崩壊する小胞子期には200以上あった。花粉発達の初期において発現量に違いが見られた遺伝子のなかに、小胞子形成を制御する遺伝子があると考えられる。今後、雄性不稔の原因遺伝子であるか検証する必要がある。小胞子期に発現量の差が見られた遺伝子は、小胞子形成に直接関わる遺伝子が多いとみられる。 以上のように、スギEST情報をもとに作成したDNAマイクロアレイを用いて、正常個体と不稔個体の雄花で発現する遺伝子を比較解析した結果、雄性不稔に関わる遺伝子を絞り込むことができた。
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