本研究の目的は、病原体マツノザイセンチュウ(以下線虫と略記)とその媒介者マツノマダラカミキリ(以下カミキリと略記)成虫の両方をターゲットにしたマツ材線虫病の微生物的防除法を開発することである。線虫に対しては、その餌となる青変菌の繁殖を抑制する「兵糧攻め菌」および線虫を直接殺す能力のある「線虫寄生菌」を、カミキリに対しては、カミキリを直接殺す能力のある「昆虫病原菌」を用いることで、カミキリによるマツ健全木への線虫の伝播を阻止することを目指した。 脱出後の日齢が異なるカミキリ成虫の昆虫病原菌感受性を調べたところ、1)脱出直後に感受性が最も高いこと、2)脱出後2週間までは時間の経過とともに感受性が低くなること、及び3)脱出後4週間では再び脱出直後に近いくらいまで感受性が高くなることが分かった。このことより、マツ健全木の線虫伝播を阻止するためには、脱出直後のカミキリに昆虫病原菌を感染させるのが最もよいことが確認できた。 兵糧攻め菌には、枯死木からの脱出時にカミキリ成虫が保持している線虫数を対照区と比べて減少させる効果が見られた。一方、線虫寄生菌にはその効果が見られなかった。脱出直後のカミキリに感染させた昆虫病原菌は、生存(摂食)期間を短締することで、カミキリが脱出時に保持していた線虫数に占める摂食時にマツ健全木の枝に伝播した線虫数の割合を減少させた。以上のことより、兵糧攻め菌と昆虫病原菌はそれぞれ単独でもカミキリによって健全木に伝播される線虫の数を減少させる効果があるが、両菌を併用するとより有効であることが明らかになった。カミキリを対象に2008年4月から製造販売されている昆虫病原菌の不織布製剤と組み合わせることが可能な兵糧攻め菌製剤の開発につながる成果である。
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