研究概要 |
本研究は初年度において、魚類精子の凍結保存技術の確立、二倍性精子の作出、顕微授精技術の高度化という観点からドジョウ属を材料に研究を行った。精子凍結保存技術に関しては、ドジョウに特徴的な少量の精液でも凍結保存が可能となるように、凍結保存容器と装置を開発した。また、凍結保存に最適な冷却速度(37.5℃/min)、精子希釈液(63.5mM NaCl,114mM KCl,20mM Tris)、凍害防御剤ならびにその濃度(内部凍害防御剤:10%メタノール、外部凍害防御剤:BSA 1%もしくはglycine 0.5%)を決定した。本研究で開発した方法は絶滅が危倶されるドジョウ属魚類に応用が可能である。二倍性精子の作出に関しては、自然四倍体由来の二倍性精子と通常二倍体由来の半数性卵との受精後、第二極体放出阻止によって作出した新四倍体系統から二倍性の精液を大量に得ることができた。さらに、人為雄性発生法によって二倍性精子ゲノムのみで遺伝情報が構成される正常な二倍体個体を作出することができた。このことは、本研究で誘起した新四倍体系統由来の二倍性精子のゲノムのみで個体の再生が可能であることを示している。魚類の顕微授精技術の高度化に関してはまず、精子の蛍光色素による可視化を行った。その結果、Hoechst 33342によって精子が可視化できることが分かった。しかし、一部の死んだ精子においてのみ強い蛍光が観察され、生細胞の均一な染色は困難であった。一方、ミトコンドリアを特異的に染色できるMito-trackerでは全ての精子で均一な染色が可能であり、蛍光色素による精子の可視化に適していた。顕微注入法については卵膜除去卵、未受精卵、賦活化卵について検討し、ピエゾマイクロマニピュレーターシステムを用いることによって卵膜除去卵と賦活化卵に容易に顕微注入することが可能となった。
|