研究概要 |
水産資源量変動の正確な解析には、「1つの集団」を対象としてその成長や生残などを知ることが必要であるため、水産生物の系群判別が大変重要である。これまでの系群判別にはアロザイムや遺伝子DNAマーカーによる解析などが多用されてきたが、種苗放流魚や養殖魚のように、種苗の売買が頻繁に行われ遺伝子が交流する場合には、由来した集団の遺伝子組成に差異がなければ系群判別は出来ない。耳石微量元素濃度は遺伝子には左右されず、環境水中の微量元素濃度に影響を受けることが示唆されている。すなわち、二つの集団が地理的に異なる場所で生活すれば、その環境中の微量元素濃度の違いが耳石微量元素組成に反映されるため、集団の判別が可能になると考えられる。そこで本年度は、レーザーアブレーション高周波誘導結合プラズマ質量分析法を用いて魚類耳石中の微量元素を多元種同時に測定し、水産重要種であるウナギとサケなどの通し回遊魚の解析を行った。これら両種の淡水生活期に相当する部位と海洋生活期に相当する部位のMg, Zn, Sr, Ba濃度は、いずれの元素においても有意に異なっていた。MgとZn濃度は淡水生活期に相当する部位で高く、SrとBa濃度は海洋生活期に相当する部位で高かった。Srと各元素の間には、正か負の相関関係が見られた。以上から耳石中のこれらの微量元素は環境水中の濃度を反映しているものと考えられた。さらに、アユとシロウオの耳石Sr/Ca比解析から回遊履歴を推定した。アユの耳石Sr/Ca比は、耳石中心部分では低く、その後Sr/Ca比の急激な増加がみられた。一方、シロウオの耳石Sr/Ca比は、中心部分から縁辺部分までほぼ一定であった。アユは両側回遊型のパタンを示したが、シロウオは遡河回遊型のパタンを示さなかった。以上から、アユは孵化後淡水環境を経て降海するが、シロウオは生活史を通じて淡水環境を利用しないと考えられた。
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