研究課題
両側回遊性のボウズハゼ亜科魚類の起源と回遊行動の進化過程を明らかにするため、ボウズハゼ(Sicyopterus japonicus)の河川における生態調査を行った。和歌山県太田川において3年間に亘り、毎月1回調査したところ、本種の生活史は熱帯のボウズハゼ亜科魚類の生活史と異なり、完全に四季に対応した生活史を持つことが明らかになった。すなわち、河川水温、雌雄の肥満度、雌の生殖腺重量の経月変化の観察結果より、本種は春に活動を始め、夏に産卵、秋に栄養を蓄え、そして冬に越冬するという明瞭な季節性を示した。また本種の最高齢は6歳であり、加入して1年後から雌雄ともに繁殖に参加した。太田川のボウズハゼ仔魚の加入時期は4月から7月の4ヶ月間であり、昼の上げ潮時に遡上する。また、ボウズハゼ仔魚の流下時期は7月から9月の3ヶ月間で、夜間、一斉に流下する。仔魚の加入および流下時期についても本種は、熱帯のボウズハゼ亜科魚類と比べ、短いことが分かった。さらに、太田川に加入するボウズハゼ仔魚の日令査定を行い、その海洋生活期は熱帯のボウズハゼ亜科魚類に比べて2〜4倍長いことを明らかにした。一方、高知沖でボウズハゼ仔魚が採集された例から、本種が黒潮を使って長距離分散している事実が示された。以上の結果を総合すると、ボウズハゼ亜科魚類はヨシノボリ属魚類やアユと同様の両側回遊魚であるが、両者の仔魚期の海洋生活様式には本質的に大きな違いがあるものと考えられた。すなわち、ボウズハゼ亜科魚類は海洋生活期に大規模に分散して、全く母川に回帰しないが、ヨシノボリ属魚類やアユは、海域での分散は少なく、結果として母川に回帰する傾向があるものと考えられた。海洋生活期の大規模分散は、ボウズハゼ亜科魚類が熱帯島嶼域に広い分布域を持つに至った理由の一つと推察する。
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