獲得免疫の主役であるT細胞は主要組織適合抗原(MHC)によって拘束されるため、その機能解析にはMHCの遺伝型が適合したクローン系統の実験動物が不可欠である。このため、免疫実験に有用なクローン系統が殆ど確立されていない魚類では、この分野の研究が立ち遅れている。本研究では、クローンギンブナを用いることにより、魚類におけるウイルス抗原特異的T細胞の培養システムの構築を試みる。 まず、ウイルス抗原(ギンブナラヴドウイルス)に特異的なリンパ球の増殖を誘導するため、S3n系統ギンブナのリンパ球とウイルス抗原処理したS3n系統(リンパ球とMHC型が一致)由来抗原提示細胞、あるいは、OB1系統(リンパ球とMHC型が異なる)由来抗原提示細胞とを混合培養した。その結果、S3n系統由来の抗原提示細胞と混合培養した場合のみ、ウイルス抗原特異的なリンパ球の増殖が誘導された。この結果から、ウイルス抗原に特異的なリンパ球がin vitroで培養可能であること、そのリンパ球はMHC拘束性によってウイルス抗原を認識することが推測された。次に増殖したリンパ球がT細胞であるかを検討するため、増殖した細胞からRNAを抽出し、T細胞マーカーであるTCRとCD8αのmRNA発現量をRT-PCRにより解析した。その結果、培養3時間後から培養リンパ球のTCRとCD8αmRNA発現量の増加が確認され、このリンパ球増殖にキラーT細胞が関与していることが示唆された。また、ヘルパーT細胞のマーカーであるCD4遺伝子は、ギンブナでは未だ同定されていないため、縮重プライマーを用いたPCR法によりギンブナCD4遺伝子の塩基配列の決定を試みた。その結果、他の動物種のCD4と高い相同性を持つ、ギンブナCD4分子のcDNAクローニングに成功した。 今後は、培養リンパ球のウイルス感染細胞に対する傷害能の有無やウイルス抗原特異的なリンパ球増殖にヘルパーT細胞が関与しているかを確認する予定である。
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