研究概要 |
海産種子植物アマモの種子休眠と種子発芽の生理メカニズムを明らかにするため,生理学的・分子生物学的研究を行った。 1.アマモ種子の生理学的解析 2007年5月2日から7月6日に横須賀市走水の天然アマモ場において,正確な開花後日数の種子を採取した(開花後0-56日目)。これらの種子について形態観察と長軸長・生重量・含水率の測定を行い,形態的・生理的特徴から種子発達段階を(1)種子発達期(開花後0-21日目),(2)種子成熟期(開花後21-35日目),(3)種子休眠期(開花後35日目以降)と規定した。 環境要因が成熟種子の発芽に与える影響を解析した。その結果,低海水温度(15℃)と低海水濃度,(22.5‰)が発芽に促進効果を示すこと,発芽促進効果の本質が低浸透圧であることが明らかになった。また,植物ホルモン(アブシシン酸)による発芽抑制効果も確認された。 2.アマモ種子の分子生物学的解析 モデル陸上植物の塩基配列を参考に,PCRによる休眠・発芽関連遺伝子の検出を試みた。合計65通りの条件でPCRを行ったが,休眠・発芽関連遺伝子(group 1 LEA,group 2 LEA,VP1/ABI3,AMY)は検出されなかった。この結果から,海産種子植物と陸上植物とでは休眠と発芽の生理メカニズムが大きく異なっている可能性が示唆された。一方,種子から単離されたZoHSP70遺伝子の発現様式から,ZoHSP70が種子成熟期の分子マーカーとして利用できることを示した。 また,内部標準遺伝子としてZoEF1遺伝子とZoGP3DH遺伝子を単離し,これらがさまざまな組織で恒常的に発現していることを確認した。 本研究で得られた成果は,アマモの植物生理学的研究や生物多様性研究において重要な基礎となる。また,アマモ場再生の現場においても,良質な種子の採集や発芽率の向上に応用が期待できる。
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