研究課題
本研究では、二枚貝を特異的に殺滅する性質を持つ有害プランクトンHeterocapsa.circularisquamaの越冬メカニズムを解明することを目的としている。本種の越冬メカニズムを解明するにはそのモニタリング手法の開発が重要となる。本種のモニタリングは、主に顕微鏡を用いた直接計数法によってなされている。近年、分子生物学的手法によるモニタリングの導入も進められているが、いずれの手法も細胞の量的な情報しか読み取れず、増殖・衰退の過程など細胞の状態を測定する技術は皆無である。そこで、DNA合成期に特異的に発現するProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を増殖マーカーとした赤潮増殖診断法の開発を今年度の課題として設定した。本研究では、まずH.circularisquama OA-1株のPCNAをコードする遺伝子のクローニングを行い、定量的RT-PCR法を用いて増殖過程におけるPCNA遺伝子の発現量の変化を調べた。得られた結果を以下に要約する。1.2種の渦鞭毛藻PCNA塩基配列の保存領域に設定したプライマーを用いてPCRを行った結果、約400bpの増幅断片が得られた。得られた増幅断片の塩基配列を決定したところ、371bpを含んでいた。2.得られた配列はP.lunala CCMP731株と87%、P. piscicida CCMP1831株と85%の相同性を示した。また、DNA結合部位、DNAの修復、3量体の形成ならびに複製因子Cとの相互作用に関わる機能ドメインが保存されていることから、H.circularisquama OA-1株より得られたアミノ酸配列は、PCNAの部分配列であることが示唆された。3.H.circularisquama OA-1株から全RNA抽出を行い、PCNA遺伝子を標的としたRT-PCRを行った結果、得られたcDNAとゲノムDNAの塩基配列と一致したため、H.circularisquama OA-1株においてPCNA遺伝子が転写されていることが示された。4.定量的RT-PCRによりPCNA遺伝子の転写解析を行った結果、PCNA遺伝子の転写量は対数増殖期に1.37〜1.64、定常期では0.90〜1.19を示し、2者間の発現レベルに差が認められた。以上、これらの結果より、H.circularisquama OA-1株においてPCNA遺伝子が転写されており、PCNA遺伝子をH.circularisquamaの増殖マーカーとすることが可能であることが強く示唆された。今後、本種におけるPCNA遺伝子の発現様式を明らかにし、本種のモニタリング、特に越冬形態の解明に役立てたい。
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藻類 Jpn.J.Phycol.(Sorui) 54
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