近年、我が国周辺海域では、マイワシが資源崩壊の危機にある一方、カタクチイワシは資源増大期にある。この「魚種交替」現象は気侯変動と対応してきたが、生物過程には未知の部分が多い。現在、資源変動予測のため、気候との関係だけでなく、具体的な生物過程を解明することが求められている。これまでに行った研究では、魚種特有の適水温特性に着目してきたが、その結果、最近年のマイワシ資源の低迷等、水温だけでは説明し難い現象もあり、種間相互作用の影響を解明する必要があると考えられた。 本研究課題では、魚種交替生物過程における魚種間相互作用の役割を理解する準備段階として、カタクチイワシとマイワシの産卵の時空間的重複を定性的かつ定量的に推定した。 カタクチイワシとマイワシの産卵場は主に2〜6月に沿岸域で重複していた。重複産卵場面積及び重複産卵量が全体に占める割合は、カタクチイワシでは資源水準にかかわらず低かったが(6〜31%及び7〜40%)、マイワシでは資源減少に伴って急激に増大していた(21〜81%及び1〜87%)。特に最近年(2000〜2004年)の平均では、マイワシ産卵場面積の68%が重複産卵場、年間産卵量の62%が重複産卵場における産卵であった。もし孵化後に直接的競合等が起これば、マイワシ資源回復に不利に作用する一要因となり得る可能性が示唆された。
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