本研究は、アラニンラセマーゼを通じてクルマエビにおけるD-Alaの代謝および蓄積メカニズムを解明することを目的とし、平成18年度では、主に、クルマエビの高浸透圧ストレスおよび脱皮によるD-Alaの組織別変動を明らかにするとともに、アラニンラセマーゼのアイソフォーム解析を行った。 1.高浸透圧ストレスおよび脱皮によるD-Alaの変動について クルマエビでは、筋肉および肝膵臓において遊離D-Alaが検出されている。そこで、D-Alaの代謝経路を追跡するために、組織ごとのD-Alaを測定したところ、全ての組織においてD-Alaが存在していることが明らかとなった。そこで、100%から150%海水に順応させた時の各組織のD-Alaの変動を測定したところ、神経組織を除く全ての組織でわずかな増加がみられたが、肝膵臓においては著しい増加が認められた。一方、50%から100%海水順応させた際には、肝膵臓では変動はみられなかったが、他の組織においては、顕著な増加が認められた。したがって、組織ごとに高浸透圧ストレスに対する応答が異なっていることが明らかとなった。 また、クルマエビの筋肉および肝膵臓では、脱皮1日後において、アラニンラセマーゼ活性が著しく増加することが明らかとなっている。そこで、脱皮1日後の個体を採取し、組織ごとにD-Ala含量を測定したところ、D-Alaの著しい増加がみられた組織は認められなかった。 2.アラニンラセマーゼのアイソフォーム解析について クルマエビ筋肉および肝膵臓において、それぞれアラニンラセマーゼをコードすると思われる複数の転写産物の配列を決定したところ、5つの転写産物が同定され、これらは選択的スプライシングによって生じたものであることが予想された。さらに、アラニンラセマーゼの翻訳領域をコードするDNA配列を明らかにしてこれらと比較したところ、1つのイントロンが様々なスプライシングを受けることによって複数の転写産物が生じていることが明らかとなった。
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