これまで神経関係の研究に盛んに用いられてきたN-メチル-D-アスパラギン酸が、近年、天然に広く存在することが明らかとなった。海産無脊椎動物体内にはこのN-メチル-D-アズパラギン酸のみならず、そのエナンチオマーであるN-メチル-L-アスパラギン酸、さらにはN-メチル-D-グルタミン酸およびN-メチル-L-グルタミン酸も存在する。本研究はほとんど知見のないこれらのN-メチル-D-アミノ酸およびそのエナンチオマーの代謝および生理的役割を解明することを目的とする。平成18年度は、代謝酵素探索の手がかりとするために様々な海産無脊椎動物の各組織におけるN-メチル-D-アスパラギン酸、N-メチル-D-グルタミン酸およびそれらのエナンチオマーの分布とその含有量について比較検討した。 これまでの研究でN-メチル-D-アミノ酸およびそのエナンチオマーの存在が明らかになっている二枚貝以外の、刺胞動物のイソギンチャク、棘皮動物のウニやヒトデ、軟体動物のアメフラシなど様々な海産無脊椎動物について調査し、その存在を確認した。これらの生物の多くにはD-アスパラギン酸オキシダーゼ活性が存在していた。粗酵素抽出液を用いて本酵素の基質特異性を調べたところ、N-メチル-D-アスパラギン酸およびN-メチル-D-グルタミン酸も基質とすることが明らかとなった。現在、本酵素の精製を試みており、均一な酵素が得られたならば詳細に基質特異性を検討する予定である。一方、S-アデノシル-L-メチオニンをメチル基供与体としてD-アミノ酸からN-メチル-D-アミノ酸が生合成されている可能性について、これらの生物を用いて検討しているが今のところその経路は確認できていない。その他の化合物をメチル基供与体として生合成されている可能性についても併せて検討している。
|