これまで神経関係の研究に盛んに用いられてきたN-メチル-D-アスパラギン酸が、近年、天然に広く存在することが明らかとなった。海産無脊椎動物体内にはこのN-メチル-D-アスパラギン酸のみならず、そのエナンチオマーN-メチル-L-アスパラギン酸、さらにはN-メチル-D-グルタミン酸およびN-メチル-L-グルタミン酸も存在する。本研究はほとんど知見のないこれらのN-メチル-D-アミノ酸およびそのエナンチオマーの代謝および生理的役割を解明することを目的とする。平成20年度は、昨年度までの研究でN-メチルアミノ酸の存在が明らかとなったヒトデを用いて、以下の事項について検討した。 1. D-アスパラギン酸の生合成を可能とする酵素アスパラギン酸ラセマーゼの精製 : N-メチル-D-アスパラギン酸の前駆体と考えられるD-アスパラギン酸の生合成を可能とするアスパラギン酸ラセマーゼ活性がヒトデ組織に存在する。本酵素をヒトデ組織から単離精製することを試みたが、各種カラムクロマトグラフイーを用いても非常に困難であった。 2. アスパラギン酸ラセマーゼ活性およびD-アスパラギン酸オキシダーゼ活性の季節変動 : 両酵素活性が季節とともにどのように変動するのかについて調べた。その結果、春に比べ繁殖期の夏では精巣のD-アスパラギン酸オキシダーゼ活性が低下していたのに対し、アスパラギン酸ラセマーゼ活性は有意に上昇していた。一方、卵巣の両酵素活性には季節変化が認められなかった。このことからD-アスパラギン酸代謝酵素系がオスのヒトデにおいて何らかの機能を持つ可能性が示唆されるとともに、N-メチルD-アスパラギン酸との関連にも興味が持たれた。 3. 神経組織におけるN-メチルD-アスパラギン酸の存在 : 神経組織においてN-メチルD-アスパラギン酸濃度は高く、その生合成活性の存在が示唆された。
|