研究概要 |
従来,青果物の鮮度指標として,収穫からの経過時間および温度上昇に伴って含量が減少する性質を有するビタミンCや糖が用いられてきた。しかしながら,品種や作型によってそれらの含量は収穫時から異なり,鮮度の定量的評価にはその時点の含量のみならず,収穫直後の含量も把握し,それらの比率で表現する必要があった。すなわち,流通時のある時点での測定のみでは,その鮮度を正当に評価できないという欠点を有している。本研究は,青果物の細胞膜脂質代謝に注目し,こうした欠点を克服した青果物鮮度の絶対評価を可能とする指標を開発しようとするものである。実験では,8月に岐阜県高山市にて収穫されたホウレンソウを供試材料とした。これらを5℃,10℃,15℃,20℃設定のインキュベータ内に貯蔵し,適時サンプリング後,直ちに凍結乾燥試料を作成した。それらについて,脂質過酸化物の指標となるチオバルビツール酸(TBA)価および膜の主要構成成分であるリン脂質含量を測定した。得られたTBA価を実験試料が遭遇した積算温度に対してプロットした結果,直線的な増加傾向が認められ,また,貯蔵温度に依らず同一の直線上に分布した。一方,リン脂質含量は,5,10℃貯蔵区においては積算温度の増加に対してほぼ一定値で推移したが,15,20℃貯蔵区においては減少傾向が認められた。リン脂質含量に対するTBA価の比を積算温度に対してプロットしたところ,積算温度の増大に伴いTBA価/リン脂質含量比は増加した。このことから,この指標は鮮度評価指標として適用可能であることが示唆された。今後は,サンプリング部位や膜脂質関連物質の抽出法を再検討すると共に,品目,作型,品種等を変えた青果物についてデータを蓄積し,提案した指標によって青果物鮮度の絶対評価が可能であるかどうかまで検討を進める予定である。
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