研究概要 |
19年度までの研究では, 勾配磁界による酸素供給という化学物理的手法はタイムThymus vulgaris実生の根の生長に影響を及ぼさなかった。20年度には, この結果を2008年6月の国際会議(The Bioelectromagnetics Society 30th Annual Meeting, 米国サンディエゴ)で発表し, 関連分野の専門家の意見を求めた. その結果, 勾配磁界によって酸素分子に働く磁気力が弱い可能性があるのではないかとの指摘を受けた. そこで, 本実験系での溶存酸素分子の勾配磁界中での振る舞いに関する再考察を行った. 具体的には, Hughes and Youngによる連続媒体に作用する磁気力の式に基づいて, 本実験系での酸素分子に作用する磁気力の再計算を実施した.その結果, 水中において種子の方向に向かう, 重力より大きな磁気力が供試PCRプレート内の酸素分子に作用することが計算上確認できた. この結果から予想される実験系(PCRプレート内)の溶存酸素濃度の変化を検出するために, 化学反応2Cu+O_2+2H_2O+8NH_4OH→2[Cu(NH_3)_4](OH)_2+8H_2Oによって生じる青色の錯体2[Cu(NH_3)_4](OH)_2の濃度変化を再定量したところ, 最大の磁気力が作用するPCRプレート孔の位置で2[Cu(NH_3)_4](OH)_2の濃度が最大となった. したがって, 最大の磁気力が作用するPCR孔の位置でタイム種子の成長が促進される可能性が高いと推察して実験を繰り返したが, 勾配磁界による酸素供給で成長が促進されるという結果は得られなかった.
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