研究概要 |
本年度は,メタン発酵消化液中の蛍光成分の解析を行うため,照射励起波長(300nm〜800nm)と取得蛍光波長(300nm〜800nm)を様々に変化させて,メタン発酵消化液の励起蛍光マトリックス(EEM)を取得した。 EEM中には,大きく3つの蛍光強度のピークが確認された。最も大きいピーク(ピーク1とする)は極大値が(励起波長,蛍光波長)=(285nm,335nm)に生じていた。次に大きいピーク(ピーク2とする)は(235nm,330nm)付近に極大値をとっていた。また,(360nm,425nm)付近にもピーク(ピーク3とする)が確認された。続いて,このメタン発酵消化液の固相と液相を分離してEEM計測を行ったところ,ピーク1およびピーク2が液相中のEEMに,また,ピーク3が固相中のEEMにあらわれることがわかった。これに関して,メタン生成過程の中間生成物である各種有機酸の純物質についてEEMを計測した結果,ピーク1がメタン生成過程の最終中間生成物の一つである酢酸に由来することがわかった。また,ピーク3については,固相中の浮遊性物質であること,および蛍光波長の特性から,メタン生成古細菌中の補酵素の一種であるF420に由来する蛍光であることが推定された。ピーク2についても,有機酸の一種である可能性が示唆された。 また,別実験として行った投入基質に対するEEM計測では,投入原料中に含まれる植物由来のクロロフィル蛍光を,発酵前後でそれぞれ取得することができた。発酵後の残渣からもクロロフィル蛍光が検出された理由としては,リグニン等の難分解性物質に覆われていたことで,葉緑体の一部が分解されなかった可能性が考えられた。 以上の結果から,励起蛍光マトリックスが,メタン生成古細菌,メタン生成経路の中間生成物である有機酸,さらに基質の分解率に対する蛍光モニタリングに適用できる可能性が示唆された。
|